| <第4話/エプロンと公爵博士の可愛い赤ん坊(2)> |
| 入ってみると、中は外見から想像されるようなものではなく、 ごく普通の一軒家のような作りになっていた。 にぎやかな一室から、くしゃみと泣き声と皿の割れる音が いっしょくたに なって、もれている。 あそこかな?? 部屋の前に立ち中を覗くと、暴れまわっているロボットに 腕におくるみに包まれた赤ん坊を抱いて、 辟易している亘理の姿が目に映った。 そぉっと、部屋の中に足を踏み入れる。 「こんにちはー」 「おお。坊やないか。」 騒音にかき消されるかと思った声は、以外にも亘理の耳に 届いていたらしく、亘理はおいでおいでというぐあいに手を上げたが 「コショーコショー!!」 ビービ―と音をたてて皿を投げ割りながら暴れているロボットのせいで 容易には亘理のそばまで近づく事ができない。 「コショーコショーー!!!」 「えぇ〜〜い。うっさいわーーーー!!!!」 そう叫ぶと、亘理は強行手段と言わんばかりにロボットの耳(?)に ドライバーをつっこんで静止させてしまった。 ロボットの静止とともに、亘理の腕の中の赤ん坊の泣き声もおさまる。 「ごめんなー。こんなロボットやけど 飯、作るのめっちゃ上手くてなー」 「そうなんですか。」 『故障』ってさけんでたし、おかしくなっちゃったのかな・・・ そう思いながら、密は足元に散らばっているガラスに 気をつけつつ亘理に近づいた。 キッチンらしいその部屋のガスコンロの上の鍋からは、 ぷぅんと食欲をそそる良いにおいがにおってきている。 ぐぅぅっと、眠っていた腹の虫が起きだす。 「なんや坊。腹減ったんか?」 「あ。い、いえ・・・」 しかし、正直なお腹はおもいっきり音をたてて密の言った言葉を否定した。 亘理が軽く笑う。 「んー。その鍋のスープ・・・飲めそうか?」 のぞきこむと、スープの中には胡椒の瓶がまるごと入っていて、 色も、胡椒で真っ黒になってしまっていた。 「・・・胡椒が・・・」 「あー。やっぱりそうか。 いやー。このロボット変な奴でな、めっちゃ胡椒が好きなんや。 あんまり胡椒を使うと、嬉しすぎて頭の中の回路がおかしくなるみたいで 暴れだすねん。 やっぱ、わいには工学はむいてへんのやなー・・・。」 がっくりと肩を落とす亘理を見て、密は話題を変えようと 「あの、食事よりもお願いがあるんですけど・・・」 と、当初のお願いを切り出すことにした。 「ん?なんや??」 「服を貸してもらえませんか? あと・・・できれば下着も・・・」 いいかげん、メイド服もドロワーズも嫌だ。 「なんでや?? その服やったら、なんか都合が悪いんか??」 汚れてるわけでも無さそうやし・・・と、亘理に上から下まで見られる。 ・・・っていうか、俺がこんな格好してる事自体 おかしいのでは・・・ たらたらと汗を流していると、ふいに「ん?」と、亘理が首をかしげた。 「坊。膝の下、どうしたんや? なんや、赤くなってすれたみたいになってるで?」 言われてハっとする。 「こ、これはっっ」 あわてて、隠すようにしゃがみこんでしまった。 「え、えーと・・・そう!! ウサギ獲りの罠にはまって・・・!!!」 あきらかに挙動不審で、訳のわからないことを言ってしまったが、 亘理は 「あー。帽子屋がしかけたやつか・・・」 と言って納得してしまった。 ほーっと、小さく安堵のため息を吐く。 なんとかごまかせたみたいだ・・・ でも、帽子屋って・・・・?? 考えていると、亘理は戸棚から何やら取り出し、密の手のひらにそれを置いた。 ガラスの小瓶に、白濁しているがやや透明の液体がはいっている。 「亘理特製 『みるみる傷が治る薬』や。 この薬、飲めば どんな傷もたちまち治ってしまうという すぐれ物なんやで。」 手のひらの小瓶をみつめて密はしばし黙り込んでしまった。 ・・・まさか、媚薬・・・なんてこと無いよな? ごくっと唾を飲み込む。そんな密に気がつかない様子で 亘理は自分の腕の中の赤ん坊を『いない、いない、ばー』と 昔ながらの方法であやしていた。 それを見て、なんだか少し安心してしまう。 誰との子かわからないけど、亘理さんってパパなんだよな・・・ 考えて、じぃっと目の前の小瓶をみつめる。 なんか、ポカリみたいだ・・・ そう思って見ると、たしかにそれは栄養補給飲料水の ポカリスウェットに酷似しているように見えた。 くいっと ふたを開けて一気に飲みほす。 味もポカリみたいだ。 舌の上を覚えのある味が通り過ぎすぎる。 空腹とともにあったのどの渇きが潤わされる心地良さに ほっと一息をついていると、体のだるさが取れていっていることに気づいた。 そぉーっと、スカートをまくってみる。 跡、消えてる・・・ こっちもかな?? はめている手袋をはずすと、手首の痕もきれいに消えていた。 すごいなー、この薬。 痕だけじゃなくて、体の疲れもとれちゃったよ・・・ 「坊ー。今、洗濯しとるみたいでこんなんしか無いんやけど、ええか??」 いつのまに用意したのか、亘理の手には赤ん坊と一緒に 服のようなものが握られていた。 「はいこれ。下着と服な。 服、Tシャツと短パンで悪いんやけど・・・」 白い半袖Tシャツと薄いデニム素材の短パンが手渡される。 「ぜんっぜん、良いです!!」 力を込めて答えた。 今までで一番まともな服だ。 「着替えるんやったら、そっちの部屋 使いー」 「あ、はい。 ・・・あの」 「なんや?」 「俺、なんか食べ物作ります。 たぶん、それよりかはマシなものが作れると思うんで・・・」 視線を胡椒まみれのスープにうつす。 服のお礼したいし。 それに、ロボットがスープ作ってたってことは、 亘理さんもお腹空いてたって、 ことだよな。やっぱ。 「ほんまか?いや、でも、悪いからええわ。」 亘理が微笑む。 「あ。でも、俺も腹へっちゃったし・・・」 「・・・そうか?ほんなら、お言葉に甘えようかな。」 「はい。とりあえず、俺 着替えてきます。」 言われた部屋に行って、密は着替をはじめる。 下着は、まだ新品のまま袋に入った薄い灰色をしたボクサーパンツで、 短パンとTシャツは、多少、使用感はあったが洗濯されていて 清潔なシャボンの香りがする。 しかし、亘理サイズなので密には少し大きいようだった。 下着は腰の部分にゴムが入っているので大丈夫だが、 Tシャツは、肩の位置があわず襟ぐりが大きく開き 華奢な鎖骨があらわになってしまう。 短パンは、腰の部分がぶかぶかでウェストのところではとまらず、 腰骨までずれさがってきてしまう。 ま、今までの比べたら、ちょっと大きいくらい我慢できるか・・・ 目の前にある鏡台を何気なくのぞくと、首筋に 都筑がつけた2つのキスマークが残っているのが見えた。 う、うそだろ??!!! べろんと、Tシャツをめくってみる。 しかし、他の部分には1つもキスマークは残っていない。 なんでこれだけ?? ど・・・どうやって隠そう・・・。 鏡台を見ると、女の人が使う粉白粉があるのが見えた。 これ塗っとけば・・・ ぱふぱふっと塗ってみると、赤い跡は少しやわらいだように見えた。 なんとかOK、かな・・・ ふぅっと軽く息をはくと、密は今まで着ていたメイド服を 手に持ち、 亘理達のまつ部屋へといそいで戻って行った。 |