<第4話/エプロンと公爵博士の可愛い赤ん坊>
いもむしの追っ手から逃げるため、
密は走って走って、もう足が動かないと
いうまで走ったときに やっと景色も変わり、
明るいけれど一見、異様な容貌をもつ研究施設のような
お屋敷にたどり着いた。

お屋敷の前に、眼鏡をかけたキツネの顔をした従者と、
向かい合ってこちらはウサギの顔をした従者が立っている。

 あれ?あいつらって・・・

見覚えがある2匹(?)の従者のウサギのほうが、やおら胸元から
大きな書状を取り出し、相手に手渡しながらもったいぶった声で
「公爵博士に、女王様よりクロケー競技大会へのご招待でございます。」
と言った。それに対して、キツネの従者は少しだけ言葉の並びを変えて
「公爵夫人に、女王様よりクロケー競技大会へのご招待ですな。」
と、同じようにもったいぶった声で答える。

なんだかそのやりとりがおかしくて、密はくすっと小さく笑ってしまった。

 思い出した。
 たしか、あいつら雪の女王のとこのカッツェとヤンだ・・・
 ってことは、公爵博士って雪の女王??
 ・・・とりあえず、声かけてみるかな。

「あの・・・」
声をかけようとした瞬間、ウサギ従者―ヤンは、
「では。」と言って跡形もなく消えた。

消えたあとには、かすかに金色をした粉がきらきらと輝いている。
しかし、今までにたくさん変なことを見すぎてきた密の頭は、
もうすでに混乱、パニックの域をとっくに越してしまっていて
「声をかけようとしたのに、いきなり消えるなんて失礼な奴だな」
としかくらいに思わなくなってしまっていた。

とりあえず、気をとりなおしてカッツェに問い掛ける。

「ここって、雪の女王の屋敷なのか?」
ひかえめに切り出したつもりだったが、いきなりの問いかけに
カッツェは気を悪くしたようだった。

「誰ですか、それは。」
帰ってくる不機嫌な声。
「え?でも、カッツェってたしか雪の女王の執事じゃ・・・」
「だから誰ですか それは。私は公爵博士の執事ですよ。
 おかしなことを言う人ですね。」
そう言って従者が首をかしげた時だった。
家の中から、誰かのくしゃみと赤ん坊の泣き声、そして
ぱりーんぱりーんと、神経質な皿の割れる音が聞こえてきた。

 な、なんだぁ??!

「あぁ。また始まってしまったか・・・」
カッツェからもれるため息。

何事かと尋ねようとした密の耳に、聞き覚えのある
純粋な関西弁とは言えない、オリジナリティーあふれる語調の声が
聞こえてきた。

「うわーっっ。やめっアホっっ
 こいつに当たるやないか!!!!」

 ??!この声はもしかしてっっ

「亘理さん??!」
 
 そっか。考えてみれば、雪の女王がこんな研究施設みたいな
 建物に住んでるわけないよな・・・
 それに、さっきからカッツェ達は公爵『博士』って言ってたし。
 博士なんて言ったら亘理さんくらいしかいないよな。
 ・・・それにしても、『公爵』なのか『博士』なのか、
 はっきりしろってかんじの敬称だな・・・

考えて、密は小さく笑った。

 俺って、こんなに頭の中でアレコレ考えるタイプだったっけ?

目をふせて、もう一度笑う。

 まぁ良いや。とりあえず、亘理さんに会って何か服を貸してもらおう。



扉の前に立って、ノックをしようとした瞬間、
密は自分の手首にある、赤いこすれた跡に気づいた。

 跡、ついてるっっ!!!!

そこには、織也のに縛られたときについたのであろう
痕が、くっきりと形を残していた。
足のほうもみてみると、やはりそちらも赤い痕ができている。

 くそっ!!!
 足はスカートでごまかせるかもしれないけど、
 手首、どうやって隠そう・・・

考えた瞬間、ポケットの中に白い手袋が入っていることに気が付いた。
すぐにとりだし、自分の手にはめてみる。
肌触りの良い手袋は、密の手より少し大きめで、痕が隠れるくらい
すっぽりと密の手首を包み込んだ。

 ・・・これでなんとかごまかせるか・・・

下唇をかみ、小さく握ったこぶしをそのままドアに当て
トントンと軽くノックをした後、
密は「お邪魔します」と言って扉を開けた。