**HAPPYEND* BIRTH DAY


「おめでとう」とか。

そんな言葉が欲しかったわけじゃない。
欲しかったわけじゃ、ない。
...なのに、どうしてこう。
「密?どうしたの?ぼぅっとして。」
都筑の言葉に、はっと我にかえった。
覗き込まれた紫の瞳が心配そうに揺れる。
「おなかでも痛い?」
問いかけに、そんなにも自分は辛そうな顔をしていたのかと思うと、
なんだか急に恥ずかしくなってしまった。

「な、なんでもねぇよ。」
ぶっきらぼうに言い放ち、密は手元の書類を片付け始めた。

今日は10月19日。
昨日は密の誕生日だったのだ。
毎年、その日になるとうるさいくらいに祝ってくれていた都筑が、
昨日は何も言い出さないどころか、仕事が終わるとさっさと家に帰ってしまったのだ。
...「おめでとう」の一言も言わずに。
更に、都筑だけでなく、部署の誰一人としても密に祝いの言葉を述べる者がいなかった。


「慣れすぎてんのかなぁ...」
幸せに。
そう零そうとして寂しくなった密は、自分の思いを振り切るように小さく首を振る。
遠い昔、自分の誕生日はただただ呪わしいだけだった。
誕生などしなければ。
そう思い続けていた密にとって、この世に生をなした日など呪われた日でしかなかった。
なのに、数年前から急速に変わったこの日。

『俺は嬉しいよ。密が生まれてきてくれてさ。』
そう言って、どういったリアクションをしていいかわからない密を、
父親のように、恋人のように、都筑は優しく抱きしめた。
そう言われ、今までの呪われた自分がリセットされた気がした。
新しく生まれた自分。祝福され、愛される子供として。
そう、思えたのだ。

はぁっと小さく溜息をついて、自分を落ち着かせる為に密は小さく背伸びをした。



***



「寒...」
まだ10月だというのに、もう外は肌寒い。
ジャケットの前をあわせて暗くなった道を歩く。
「もう、24...か。」
つぶやくと涙が出そうだ。

昨年はどんなバースデーだったっけ?
...たしか、酔った都筑が課長に絡んで、
「密と俺の給料をもっとあげてくれ!」とか
「今の給料じゃゴージャスなホテルで密とのお泊りができないじゃないか!」とか。
馬鹿なことを言い出した挙句、巽さんにこんこんと怒られて泣き出したりしたんだっけ。

思い出すと小さく笑いがでて、また、それも涙を誘う要因となった。
「...あ〜あ。」
零れてきちゃったよ。と、小さく溜息を吐く。
我慢しきれなかった雫が頬を伝った。
ぬぐった手につけている腕時計をみると、短い針は12近くを指している。
「もうすぐ24と二日...か。」
そんなつぶやきが女々しくて、もう一度瞼をこすったとき、後ろから
「黒崎君?」
という、心地よい低音が響いてきた。

「巽さん...?」
「どうしたんですか?!」
振り返った密の顔を見て、巽はぎょっとする。
落ちる涙は止まらず、真っ赤になった目から次から次にあふれだした。
「あ...俺...っ。」
恥ずかしさに、一生懸命涙を止めようとする。
しかし、巽はそんな密を悟ったように肩に手をまわすと、
「私の部屋でコーヒーでも飲みませんか。」と誘った。
言葉でではなく、こくりと頷きを返して密は巽に連れ添われ歩き出す。

こんな時にひとりでいたくない。
慣れていた孤独は、『一人』ではなく『独り』だったのだと、気づかされた。
冷えた体と心に、自分を支える巽の体温は とても暖かかった。




―――――――――――
 「ねぇ、本当はね。一人は嫌なんだ。」

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041029,30