<第5話/チェシャ猫と木の上の悪巧み(1)>

「ちょ・・・待て!! 待て、て  ば  !!」
叫んでも、前を走る猫のような生物は止まらない。
ちらりと見える青いものは、口にくわえている都筑の扇子で、
密はそれを返してもらう為に追いかけていた。
しかし、目の前のそれは、密の声が聞こえていないのか
それとも故意に聞こえていないふりをしているのか
どんどんスピードを上げて走り去っていく。

「待て・・・て・・・」
言葉とともに、密の足もスピードダウンした。

 もー、嫌。
 せっかく亘理さんの薬で体力戻ったってのに、
 また疲れちまった・・・

ぜひゅぜひゅと、気管から嫌な音がもれる。
汗でへばりつく袖口のレースが気持ち悪い。

 着替えたい・・・
 でも、また変な服を着るのだけは絶対にごめんだ。
 ・・・これでも、まだメイド服やら着物やらよりかはマシか・・・

考えて、密は大変なことに気づいた。

 やばい!!!
 都筑の手袋、メイド服のエプロンにいれっぱなしのまま
 亘理さんちに置いてきた!!!!!

「どーしよー・・・
 このまま扇子もみつかんなかったら・・・
 どーーしよーーーーーー!!!!!」

大声で叫ぶと、木々に止まって休んでいた鳥達がいっせいに飛び去った。

 いや、べつに「都筑の為に届けたい」
 なんてわけじゃないけどさ、
 ここまであっちこっち色んなとこ行ってて
 結局何も届けられなかったー・・・なんて、
 超最悪じゃん?!
 てか・・・

「ここはどこだーーーーー???!!!」

もう一度叫ぶ。
もう、ヤケクソだ。
亘理の家も都筑の家も、森の中を扇子を追いかけてめちゃくちゃに
走っているうちに、わからなくなってしまった。

 ・・・こうなったら、帽子屋とやらのいる
 「月の昇る方」をめざして歩くしかないよな。

しかし空を見上げると、左には太陽が、右には月が
2つそろってちょうど頭上に仲良く顔をのぞかせていた。
空は、星があったりなかったり
明るかったり暗かったり、
とてつもなく『へんてこ』なのである。
これでは、どっちから太陽が昇って、どっちから月が昇ったのかなんて
さっぱりわかるはずはない。

 あ・・・た ま 、痛・・・・・

「ちくしょー・・・
 誰でも良いから、でてこぉぉぉぉーーーーーいぃ!!」
「おー。なんだ なんだー。」

座りこんで半泣き状態だった密の目前に、
突如 見覚えのある顔と声があらわれた。
「??!!」
しかし、その顔はさかさまだ。
「密ー。どうしたんだ?
 誰かって、俺でも良いの??」
ぽすんと回転して、目の前の人物は密の前に座りなおした。
さかさまに見えたのは、木に足をひっかけてぶら下がっていたからの
ようだった。

「ひそか。ひそかっ」
ぱたぱたと、黒のラインの入った白いシッポを嬉しそうにぱたつかせている。
「びゃ・・・白虎??!」
名前を呼ぶと、白虎はさらに嬉しそうにぴくくっと耳を動かした。

 も・・・もしかして、さっきの猫みたいなやつ、って・・・?!!

「なぁ。もしかして、
 さっき青い扇子くわえて走ってなかった?」
「うん。それ、俺だよ」

 やっぱり そうか。

「その扇子、渡してくれないか?
 それ、都筑のなんだ。」
「うん。知ってる。」
「え??!
 知ってるって・・・」
「それより密。
 その服、変だぞ。
 ひらひらしてて、ぜんっぜん 似合わない。」

わざとかどうか、白虎は密の問いかけをうやむやにしたまま
密の服に対して「似合わない」を連呼した。

「こっち来て。俺、もっと良いの持ってるから。」
そう言って白虎は密の腕を握ってぐいぐいとひっぱる。

 なんか、うまくはぐらかされたような・・・
 でも、服くれるって言ってるし。
 とりあえず、青い扇子も返してもらわなきゃなんねーし、
 ついて行くか。







「ここ。俺の寝床なんだ。」
連れて来られた場所は、岩場の一角の草花のしげったところだった。
隣りには、ばかでかい木がある。
白虎は、たまにその木の上で寝ているのだと言った。

 さすが 虎。
 野性味たっぷり・・・

そんなことを考えていると、ふいに体を抱え上げられた。
「な??!」
「木の上は気持ち良いぞー。
 密も上ってみな。」

片手で密をかかえ、片手だけでしゅるしゅると木に登っていく。

どんどん遠くなっていく地面に、「怖いから下ろせ!」と抗議すると
白虎はシングルベッドのサイズくらいありそうなほど
太い枝の上に腰を下ろした。
しかし、いくら太い枝と言っても枝は枝。
丸みがあり、気を抜けばまっさかさまに落ちてしまいそうだ。
地上までは、約5メートル。

 とっとと服もらって、下ろさせよう。

「白虎・・・服・・・」
「これーーーーー」
聞こうとした言葉をさえぎるように、白虎は密に
ぐちゃぐちゃになった服らしき布地をつきだした。

見えるのは、薄い灰色をしたブラウスらしきものと
水色のギンガムチェックと水色の布。

嫌な予感を感じなら、密はそれらを広げていった。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜?」
もはや言葉にならない。

「な、な??
 今着てるやつより、可愛くて密に似合うと思うぜェ。」

水色のギンガムチェックは、胸をとりまいて強調させるような形のエプロンで
水色の布地はスカートだった。

「これってもしかして・・・」

 おいおい・・・一体、こんなものどっから持ってきたんだよ・・・

たらたらと汗が流れる。

それは、店の制服が可愛くて、着ている女の子も可愛いと評判の
神○屋のウェイトレス服だった。

「白虎。
 悪いけど、これは着れられない・・・」
「えー。駄目なのかぁ?」
「う、うん。」
白虎は、ふくれっつらで服をお手玉がわりにぽんぽんと
もて遊びはじめた。

「密が着ないならいらねぇやー。」
ぽいぽいっと白虎はウィトレス服をほおり投げる。
すると瞬間、高くほおった服が、もう1つ2つ上の枝に置いてあったらしい
青い扇子をからめ、そのまま地上へと落ちていった。

「ああーーーーーーーーーっっ!!!」
「そんなに手を伸ばしたら落ちるぞ?」
扇子を取ろうと伸ばした体を、白虎につかまれる。

「下ろせっっ」
「んー。俺、眠くなっちった。
 密も寝よ。起きたら下ろしてやるし。」
「こんな危なっかしいところで寝れっかよっっ!!」
「じゃ、俺にしがみついてれば良いじゃん」

そう言うと、白虎は密を抱きかかえたまま、ころんと寝転んだ。
「うわわっっ」
いきなりぐらつく視界に、思わず言われたとうり、しがみついてしまう。

「んー。密の髪、良いにおいー」
髪に、鼻先をうずめられる。
「よせ」と払いたいが、座っていた時よりも寝たほうが枝の傾斜は
より強く感じられ、落ちてしまうのではないかと言う恐怖で
身動きできない。
しかたないので、そのまま白虎にしがみつく。

 ・・・やっぱ、なんか白虎って猫みたいなにおいがするなー。
 獣臭いっていうわけじゃなくて、
 なんていうか・・・
 外で寝たり走り回ったりしてるせいかな。
 太陽や草木のにおいがしみこんでる。

密がそんなことを考えている間、白虎はずっと密の体のあちらこちらを
さすったり、体をすりよせたりしていた。

「白虎?!」
はっと気づくと、白虎の片手がぷちぷちとブラウスの前ボタンを
はずしていっている。

「密〜。」
情けない声で白虎がつぶやく。
顔が真っ赤に上気して、瞳はうるうるとうるんでいる。

 こ、これはもしかして?!

「たっちゃった・・・」

  ――――――発情  ・・・っっ??!!

「お、おい!!!」
「交尾しよ。」
そう言うと白虎は密に抵抗の間も与えず服を全て脱がした。