病院☆パラダイス(3)

☆ ☆ ☆

ぜぇぜぇ言うのどをおさえながら特別指導室の前に立つ。


特別指導室は、南3階病棟の離れにある部屋で、
伝染病など特別な患者さんの入退院などの指導に使われる為のものだ。
だけど使われる事はほとんど無いらしくて、
ここはもっぱら『開かずの部屋』状態になっていると看護婦さん達は言っていた。


  なんでこんなとこに呼び出されたのかなー。


考えながら呼吸を整える。けど、なかなか動悸が止まらない。

「しっんどーー!!
 調子に乗って一段とびなんてするんじゃなかったよ・・・」


俺たち学生は、『学生用控え室』でご飯をたべたり着替えたりしている。
本当なら、控え室は本館の4階にあるからここまで来るのは非常に楽なのだけど
(階段下りて渡り廊下を歩くだけだから)
行き帰りの着替えの時なんかは女子が使っているので、
男子生徒は1階のせま〜くてくら〜〜い倉庫を使用することになっている。



ドアをノックしようとして、手をこぶしの形にかためた。
でも なんだか気が重くてそのままの形を持続させてしまう。


 早く終わらせてとっとと帰りたいなー。
 それでなくても実習で疲れてるし・・・
 実習日誌とサブノートもしなきゃいけないんだよなぁ。


俺はトホホと肩を落とした。



実習日誌とは、
その日一日実習した、患者さんへの援助、介護などの中から
1つをピックアップして、その時行った事の方法、工夫点や患者さんの状態、反応
そして反省、感想を1枚の日誌にまとめるもので、
これがけっこう時間がかかる。

サブノートのほうは、いわゆる『予習・復習ノート』で
最低2ページはやらなければいけない。

この2つを真面目にとりくんだら、徹夜とまではいかなくても
睡眠時間が大幅に減ってしまうのは確実だった。



 しかたない。
 とりあえず、言う事を大人し〜〜く聞いてさっさと帰らせてもらおう。



腹を決めて、俺は指導室のドアをノックした。


...コンコン


2回 ノックをすると「はい」という男らしい声が聞こえてきた。


「失礼しまーす」
扉を開けて中に入る。
大森ドクターは長い足を組んで医師用の椅子に座っていた。
ただそれだけなのに、まるで雑誌のモデルのようにきまっている。

同じ男として、なんかちょっと うらやましい&くやしい。


「何か用ですか?
 できれば、早く帰って日誌とかしたいんですけど・・・」
自分では控えめに切り出したつもりだったけれど、ドクターはむっとしたように
表情をこわばらせた。
 

  ひぃぃ。言い方間違えた??!
  怒ってる??! ちょっと・・・怖っ


カチコチにかたまっていると、ドクターは固い表情のまま話し始めた。


「君は・・・」
いつもより低めの声が部屋に響く。

その声が、怒っているからのように思えて肩をびくっとひそめると
一瞬、ドクターの顔がやわらいだ・・・と、いうかニヤケたように見えた。


目をパチクリさせていると、そんな俺を制するように
ドクターは軽く咳払いをして続けた。


「君は自分の受け持ち患者のことをきちんと理解しているかい?」



実習生1人につき、患者さんが1人 わりふられる。
実習中は主にその患者さんの病状などを調べたり看護したり
記録をつけたりして学習するのだ。

俺の受け持ち患者さんは72歳の肺がん手術後のおじいちゃんで、
とっても優しくて実習生の俺を孫のようにかわいがってくれている。


なぜそんなことを聞かれるのかとボーっとしていると
「扉の前で立ったままでいないでこっちに座ったら良い」
と、患者さん用のソファーに座るよう促された。
俺が座ると、ドクターは話の続きをはじめた。


「患者さんの年齢、病態、症状にパーソナルデータに性格・・・」



ドクターは空を見ながら話している。
だけど、俺はちょっとムカムカしていた。



たしかに俺はけっこうボーっとしているように見られることが多いけど
患者さんとはコミュニケーションをとってるし、
情報収集だって自分なりに精一杯やってるつもりだ。
なのになんで今さら初歩的な情報収集内容を
ドクターは並べ立てているのだろうか?
授業でだって何度も教えられているし、サブノートとかでも
何回か書いたりした。



 うう。なんか、すっごい腹立つ。
 一応、がんばってるつもりなのに。
 俺の実習態度って、
 呼び出されて説教されるほどいいかげんに見えるわけ??!



誰に対するものか わからないけど怒りでふるえてしまう。
ドクターが視線をこちらに戻した。

「どうかな、内田君。」
「やってます!!!」

おもわず大声で反論してしまった。
なんだかドクターの顔がまともに見れず 下を向いてしまう。



沈黙が続く。



気になって少しだけ顔を上げると、ドクターの口元だけが視界に入った。

そして、その口元が
「怒った顔も可愛いね」
と、つぶやいた。 気がした。

「はい??!」
驚いて顔を上げると、ドクターは真面目な顔をして俺のことを見ていた。


 やっぱり、聞き間違え か・・・
 それにしてもなんちゅぅ聞き間違えをしてるんだ自分!!


苦笑いでため息すると、ドクターが再度さっきの質問を問いかけてきた。


あわわわわ。


「え・・・と。
 たしかに、情報収集とかまだやり残してたり 足りないとこも
 あるとは思うけど・・・
 自分なりに一生懸命やってます。」



覇気を失ってもごもごと答えると、

「それじゃあ、君は自分のことをどのくらい知っている?」

と、ドクターは言った。



 ・・・え??



意味がわからず目をパチクリしてしまう。



 自分の事??って・・・ 何が??
 俺は俺、 だし・・・  。え? え???



頭の中を疑問符でいっぱいにしていると、ドクターは医師用の椅子から
立ち上がり、俺の右隣に座った。


ドクターの体重でソファーが沈む。


なんなんだろうとビクビクしていると、ドクターの口唇が
耳元に近づいてきた。

心の中でひぇっと飛び上がる。


次の瞬間、ドクターはまたもや意味不明なことをささやいた。





「君がまだ知らない 君の体の構造を、
 俺が教えてあげよう。」



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