この胸に秘めたるものを。
闇。 俺は闇の中にいる。 手足には鎖と革ベルト、そして秘められた罪と罰が繋がれていた。 幾月の昼夜が流れているのか、わからない。 だが、体内に流れるものは刻々とそれを続けているようで、 鼓動だけが自分の聴覚を支配するものだった。 時折聞こえる、自分を責める声以外は。 闇の中、ただ一人。 すがる手すら、許されず。 飲み込まれ、埋まり逝く。 闇が俺の周囲に腐敗を広げていく。 体内に侵食し、俺を取り込んでしまうつもりか? いいだろう。 好きにするがいいさ。 …。 あざ笑う"闇"の声が聞こえた気がした。 身をゆだね、闇が俺の口腔内に侵入を始める。 ああいつか、こんなことがあったような。 既視感。 『あの時』は、どうなっていたのだろうか。 まばゆい光が、おりてきた? ああ、ほら。 そんなことを考えていても仕方が無い。 少しずつ、闇が体温を奪っていく。 少しずつ、実に少しずつ、確実に。 己の罪を、至らしめるかのように…。 闇に体が埋まりきる。 しかしその刹那、騰蛇は誰かに揺り起こされた。 「おまえ、こんなとこで寝てたら風邪ひくぞ。」 「…白虎か。」 声の主を確認して、騰蛇はゆっくりと体を起こす。 騰蛇の横に、ふさふさした尻尾を携えた白虎が『お座り』のようなポーズで座っていた。 今まで、騰蛇は眠りに落ちていたのだ。 「嫌な夢でも見てたのか?」 白虎が、騰蛇の顔を覗き込む。 それにたいし、騰蛇は表情を変えずに「いや。」と答えただけだった。 思い出したくも無い、忌まわしい記憶の夢。 「そっかぁ?こーんな顔してたくせにぃ。」 騰蛇のそっけない返事にそう言うと、白虎は大げさに顔を歪め わざと大げさにもがき苦しむ。 「ぐ…ぐるじぃ…っっ!てな。」 「…馬鹿かおまえは。」 騰蛇は、横目で見ながら演技を続ける白虎に、呆れ顔を返した。 例えあれが今、尚、続く悪夢だとして。苦しがるはずがない。 なぜなら騰蛇は、罪の闇を、受け入れようとしていたからだ。 小さくため息をつくと、騰蛇は白虎の黄金に光るひとみを制御装置ごしにみつめた。 白虎が、それに答えるかのように騰蛇を見つめ返す。 「…白虎。」 「うん?」 しかし、続けられた騰蛇の言葉は冷たいものだった。 「俺にかまうな。向こうへ行け。」 「はー?なんだよ。冷てぇ奴だなー。」 白虎は肩を寄せ抗議しながら、白虎は騰蛇の手首を掴んだ。 「俺ほど騰蛇のことを心配している奴はいないぜ?」 のぞきこまれる。 「なぁ。」 白虎の呼びかけに、騰蛇は無言のままでいる。その顔は妙に、青ざめていた。 白虎に掴まれた手首に、特有の感触と温度を思い出す。 夢の中、拘束されていた革の感触、リアルなそれ。 しかしあの時は他人の熱ではなく、革にこもった己の熱を皮膚で知覚していたにすぎないのだが。 なぜか、騰蛇は強度の吐き気を感じた。 「…離 、せ 。」 かすれ声だが、威圧感をおびた声で吐き捨てる。 顔を真っ青にしながらやっと口を開いた騰蛇の異常に、白虎は大人しくその手を離した。 口を押さえながら、必死にこみあげてくる嘔吐を抑え付けている。 白虎はそんな騰蛇の姿を、只、沈黙とともに見続けていた。 弱みなど誰にも見せる気など無い騰蛇からしたら、それは迷惑極まりないもので、 そして、今の自分の姿は恥じそのものであった。 今、そばにいてそんな自分を見つめている白虎は、迷惑であり嫌悪の対象以外の何者でも無い。 それも、『去れ』という言葉すらも、告げたくないくらいの。 ここには今、自分以外の者はいなくてもいいのだ。 あの時のように。 暗闇の檻の中に、一人きり繋がれて。 羞恥極まりない格好で、拘束されたまま。 存在自体が厭らしいものだとでも言いたいような姿での放置。 絶望が"無"に支配される。いや、絶望なんて元から無かったのかもしれない。 侮蔑する神の声。 『なんて はしたなくて無様な姿』 感覚を切り離し、闇に従おうとした自分。 そんなあさましい俺の姿に、ただ一言だけ言い、手を差し伸べたのは…―――。 「都筑のこと考えてるだろ。」 はっと、騰蛇は白虎の声で我に返った。『最悪だ』と小さく吐き捨てるようにつぶやく。 「騰蛇。オマエさー、何か勘違いしてねぇ?」 白虎の言葉にピクリと反応する。 眉間に皺を寄せた騰蛇をそのままに、白虎は続けた。 「オマエはすぐに都筑に頼るけど、都筑がオマエに何かをしてくれるとでも思ってるわけ?」 「…頼ってなどいない。」 「なら、『求めてる』って言い換えようか?」 「求めてなどもいないっ!」 騰蛇の、低くうなるような叫び声が大地に響く。 「求めてる。 …都筑が欲しくて、たまんねーんだろ?」 「?!」 一瞬、騰蛇は言葉を失った。 「何を…」 「本当は都筑に犯られたくて うずいてんじゃねーの?」 「ば、馬鹿なことを…っ!」 『言うな』と騰蛇が続けようとした瞬間、特有の俊敏な動きで白虎は騰蛇の後ろにまわった。 「な?!!」 息つく暇も与えず、白虎は己の髪飾りの紐で、騰蛇の腕を後ろできつく縛り上げた。 「図星つかれて油断したか?」 白虎の、笑いに歪んだ吐息が首筋に吹きかかる。 「離…せっっ!」 抵抗の言葉を吐くが、聞くはずなど無い。 白虎は騰蛇の首筋に顔をうずめると、そのまま舌を這わせた。 抗おうと もがけばもばくほど、手に巻きついた紐が ぎりぎりと痛む。 獣特有のざらついた舌は、小さな痛みのような、痒みのような感覚をゆり起こしながら耳元を伝った。 「や…めろ…っ!」 喘ぐような声をだす騰蛇の耳元に、白虎は楽しそうな吐息を吹きかける。 そして、そのまま白虎は耳たぶにするどい牙をたてた。 「っ ぃっっ!」 ぢくり…と、肉が裂ける音が耳に響く。 あふれだす血に目もくれず、白虎は首筋に口唇を滑らせ、刻印のように歯形をつけていった。 首筋から体を伝い、血液が白虎の白い衣を汚す。 騰蛇が小さな痛みに気をとられているうちに、白虎は騰蛇の股間へと手を移動させた。 レザーでできた上着をかきわけ、同じくレザーでできたズボンに手を乗せる。 レザーのわりに薄い布地は、ぴったりと騰蛇の体のラインを浮かび上がらせていた。 すすっとなぞり、レザーのすべやかな感覚を楽しむように太ももをなであげる。 「騰蛇ってさ、なんでこんな服着てんの? もしかして露出狂?」 「ふ、ふざけるな!」 白虎のからかうような問い掛けに、らしくもなく顔を赤らめて抗議の言葉を返した。 自分の背後にいる白虎をきつく睨み上げるが、白虎はにやついているだけである。 そして ゆっくり手を動かし、レザーの上から騰蛇の陰部を弄ぶように爪でなぞり始めた。 もどかしいようなおぞましいような、特有の気持ち悪さと気持ちよさを帯びた感覚が背筋を走る。 「い、いいかげんに…しろっ!」 「うるせぇなー。」 感覚に取り込まれないように瞳をつぶり言う騰蛇に、白虎はやれやれと肩をすくめた。 「白虎!はなっ … ?! んん…っ!!」 騰蛇が言い終える前に、白虎は騰蛇の顎に手をかけ自分のほうへ向かせると、 その口唇に噛み付くような口付けを落とした。 いや、実際に噛み付いている。 つつー…と、騰蛇の口唇の端から赤い血が流れた。 「う … くっ ……っっ 」 白虎の荒々しい舌使いから逃れようとするが、舌は執拗に追いかけてきて絡まされてしまう。 激しく吸い上げられ口腔内に引き込まれると、牙で柔らかく甘噛みされた。 「 …ふっっ 」 息もろくにつけないほど吸われ、絡まされ、唾液を含まされる。 口の端から零れる唾液が、血液と混ざり合っていやらしい艶と色を放つ。 そうしているうちに、白虎の手は騰蛇のズボンの中へと侵入を始めた。 「?! うううっ!!」 身を捩って抵抗しようとするが、腕を肩に回され顎をつかまれてがっちりと固定されている。 あがけばあがくほど、白虎の手はズボンの中へ、舌は口腔内へ、侵入を深めるだけだった。 そして、あがいたことで腰が浮き、ズボンが骨盤まで下がってしまった。 下半身が露出される。 「んん!!んんんんっ!!!」 どうしてこんな仕打ちをうけなければいけないのか。 理解不能な白虎の行動に、騰蛇は考える暇も無く翻弄され続けている。 闇の中よりも広く、誰の目につくかわからない草原の上。 羞恥感と陵辱感に、体の力がぬけていく。 そんな騰蛇をさらに追いつめるように、白虎は騰蛇のペニスをしごき始めた。 「ふぅ…っく…っっ!」 嗚咽のような声がノドから漏れる。 舌技を続けながらも、白虎はとてつもなく卑猥な手淫を行った。 先走る液体を指先で擦りつけ、爪でペニスの先を引っ掻く。 理性を奪われまいとして吐息だけの喘ぎを殺し、逆に淫乱さをかもしだしている 騰蛇の痴態を楽しむように白虎は手の中のものを弄んだ。 まるで、獲物を殺さずにじゃれついて爪をたて、ボロボロにする獣のように。 白虎の手が、スピードをあげる。 終わりの近さを、白虎は本能で感じ取っていた。 騰蛇の背が小さくしなった、瞬間。 「うっく…うう…っっ ! 」 どくりと白く濁った排泄物が、白虎の手の中に放たれた。 はぁはぁと呼吸に喘ぐ騰蛇の口唇をぺろりと赤い舌で舐め上げ、白虎は口唇を離した。 拘束されていた紐も、解かれる。 騰蛇は、何も行動が起こせないほど疲労していた。 精神も、肉体も、プライドも。 なのに、何かが満たされている気がする。屈辱的な、満足感? 考えたくなくて、思考を閉ざすように瞳を固く閉じる。 「…わかっただろ?」 白虎の言葉が、背後から投げかけられた。騰蛇は答えない。 しかし、白虎は続ける。 「お前が待ってるのは救いなんかじゃない。 光なんかでもない。 …罰。屈辱。それと、快楽。 それを欲しがってんだよ。 卑しい自分を暴き出されたくて、犯されたいんだろ。 陵辱されるのが好きで、いやらしい姿でひぃひぃよがってるとこも、全部見て欲しい。 そんな臭いがプンプンしてるぜ。」 白虎の言葉に、騰蛇はゆっくりと白虎を振り返った。 無表情に、言い捨てる。 「…どけ。」 騰蛇の言葉にやれやれと肩をすくめて白虎は離れた。 「素直じゃねぇな。」 言いながら、白虎は拘束するために使った髪飾りの紐を、もとの位置へと くくり直す。 騰蛇は動かず、そしてそれ以上何も言葉を発さなかった。 そしてそんな騰蛇にため息をつくと「じゃあな。」とだけ言って、白虎は去っていった。 座り尽くす騰蛇の頬を、薄やかな風がなでていく。 口唇や耳たぶ、そして首筋から流れた血が、下の草にこびりついて黒じんだ染みを作っていた。 心の中にも快楽と屈辱の染みが、ちょうどそれと同じような黒い斑点を残している。 思考は、停止しているのか、それとも加速度を上げて流れているのか。 わからない。 白虎の言葉が頭を巡る。 "お前が待ってるのは救いなんかじゃ無い。" ああ、そうだ。 俺は救いなんか必要としていない。 “光なんかでもない。” ああ。 "卑しい自分を暴き出されたくて、犯されたいんだろ。" この後は、何とほざいていたか。…思い出したくも無い。 もう、何も考えたくない。 騰蛇は気力の無い手を動かして、ズボンを腰の上まであげると、そのまま地面に寝そべった。 疲労と複雑な心境とごちゃごちゃの頭の中のまま、眠りにつく。 落ちるようにもう一度、騰蛇は夢に身をゆだねていった。 夢。 しかし、そこに闇は無い。 まばゆい光と、そして誰も繋がれていない 鎖と革ベルト。 異様な蒸し暑さに、ノドの渇きを自覚する。 ふと目をやれば、衣服も制御装置もつけていない自分に気づく。 何を考えているか自分でもわからない、次の瞬間。 騰蛇は鎖と革ベルトを、自分の身へと繋げた。 安堵感と性欲感を同時に覚え、騰蛇は自分のペニスへと手を伸ばす。 劣情。 ドクリと高鳴る、胸の鼓動。 やはりここには、自分の鼓動しか音は無い。 『やっぱり、俺の言ったとおりだ。』 神の声は、白虎の声に変わっていた。 その声に駆り立てられるように、騰蛇は己のものをしごき始める。 しゅしゅっと、淫乱な音が響き始めた。 「…っう…」 「騰蛇ぁ?」 声を上げそうになった瞬間だった。 騰蛇は、がばっと勢いよく飛び起きた。 「と、騰蛇?!」 はぁっと大きく呼吸をついて、声のほうを見やる。 そこには、驚きにマヌケ顔の都筑が座っていた。 「ど、どーしたんだよ。」 「…なんでもない。」 気づかれないように大きく息を吐き、騰蛇はそう答える。 「ならいいけど…。」 都筑は心配そうな顔をしたまま、髪をかきあげた。 「なんかうなされてるみたいだったからさ。 嫌な夢でも見たのか?」 白虎と同じセリフを言う都筑に、騰蛇はおもわず苦笑がもれた。 「ああ、とびっきり嫌な夢を見た。」 いつもと違って自嘲気味に笑う騰蛇に都筑が首をかしげていると、 「都筑―!どこに行ったのさー。お茶にしないかーーい。」 と言う、上機嫌な声が聞こえてきた。 「姐さんだ。」 「…朱雀か。早く行ってやれ都筑。」 「えっと…騰蛇も一緒に、どう?」 「冗談言うな。俺と朱雀の仲が悪いのは知っているだろう。」 「都筑ぃー?」 都筑の遠く後ろから、朱雀の声が響いてくる。 「ほら。」 騰蛇が顎で都筑を促すと、都筑は後ろを ちらりと振り返った。 「姐さーん。俺はここだよー! すぐ行くから、先に行っててーー!」 そう言い、朱雀が手を振るのを確認してから、都筑は騰蛇に向きなおす。 「じゃあ、俺は行くよ。 …騰蛇が来たければ、騰蛇のぶんもお茶を用意しておくからね。」 こつんと、自分と騰蛇の額をひっつけると、すぐに離れて都筑は走り去って行った。 また、一人の時間が戻る。 まったく、今日はどうやら慌しい一日のようだ。 騰蛇はそっと、自分の額に手を当ててみた。 数秒間そうしてから、まるで汚いものにでも触れたように乱暴に手を離した。 空を仰ぐ。 今日は雲が無い。 だが、制御装置越しの空は、ただ黒に包まれ、鮮やかな色など写してはいなかった。 白虎よ。 俺には、光などあっても見えんのだ。 だからそんなもの、必要など無い。 俺の見るこれ(制御装置)越しの世界は、いつでも闇だけだ。 そう思った後で、自分が白虎の言った事に囚われている事に気づいた。 またもや自嘲気味な笑みを浮かべ、騰蛇は草むらに寝転ぶ。 すぅっと胸に大きくふくらませ、風とともに爽やかな空気を流し込んだ。 瞳を閉じる。 ゆっくりと、身が沈まりゆくのを騰蛇は感じた。 風が、体の熱の熱とともに不必要な思考をも全てさらっていく。 次は何の夢も見ずに、騰蛇は安心して体を眠りにたゆたわせたのだった。 |
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| HITNO86 アラタ様/闇末/白虎×騰蛇 |
0020525土