限界集中治療室


俺の家にはとても可愛い猫がいて。
その猫はとても可愛い声で鳴く。

プライドの高そうなそれは、しかし とても他人を魅了して。

誰にも見せたくないし、
誰にも触れさせたくない。

だから、俺は猫を家から出さないようにした。
首輪をつけて。
鎖をつけて。


――――――――――――――――――――――――――――

「ただいま。」

外からしか施錠の自由がきかない家。
玄関のドアを開けると、少し長い廊下の向こうに
密が待っているリビングが一直線に見えた。
白い肢体が、ぐたりと横たわっている。

それをみつけ、ほっとして俺は近づいた。

家具の足に頑丈にくくりつけた鎖の先には赤い首輪。
赤い首輪が拘束しているのは 裸体の密の細い首。


部屋の中には、密が力を使えないように
特殊な結界を作る為、数枚の札をはっている。


「寝てるの?」

さらりとした金の絹のような髪をさらうと、密はビクっと
体を震わし、瞳をあけた。

「― … 。」

言葉は発しない。
ただ、少し虚ろな瞳を俺に向けている。

ただいま。密。

栄養不良のせいか、青白い密の額に口付けを落す。

別に、食べさせてない。とかでは無いけど。
もとから 食事量の少なかった密は、
ここ数週間で いつも以上に食物を口にしなくなった。

ちゃんと人間扱いしてあげて、
テーブルにつかせて食事させてあげてるのに。
無理やり口の中に入れても、口唇の端からボロボロこぼすし。
…そんな姿も可愛いから良いんだけどね。


「今日も良い子にしてた?」

座り込んだ膝の上、密を引き寄せて抱きしめる。
愛撫する密の肌は しっとりとなめらかで気持ち良い。

今や密は俺だけのもので。
密の全てを、俺は支配している。
食事も睡眠も排泄も性欲も。




「…あれ?」

あることに気づいて、俺は密をみつめた。
クンと、鼻をならして空気の匂いを嗅いでみる。
異臭がしない。


朝からずっと繋がれたままのはずなのに。
排泄をした跡が無い。



「もしかして。」
そう言って密の首輪を触ろうと手を伸ばすと、
密はビクっと体をまるめた。
首輪を隠すように抵抗する密の髪を引っつかみ
頭を上に向かせる。

「―っっ!!」
「やっぱり!!!」


ぐいっと引っ張った赤い赤い首輪は、
自分ではいつものところで止めることができなかったのか
いつもしめている穴の位置よりも数個 ゆるいところに
止め具が引っかかっていた。


「これ はずしたんだね?!」

赤い首輪を強くひっぱる。
呼吸に苦しそうな密は、それでも首を横に振り 態度で言い訳をした。

「嘘つき。
 これをはずしたんだ密は。
 それで?トイレに行ったの??!
 ここでしなって言ってただろ?!!」


一瞬睨んだ先にあるのは、ペット用のトイレトレイ。
密を飼うことに決めた数日前、近所のペットショップで購入した。
今日から実際に使わせようと、置いていったのだ。



首を振りつづける密。
はずしていないと、伝えるかのように。
眉をひそめて。口唇を噛んで。
何度も、何度も、首を振る。

それを見て 頭に血がのぼるのが自分でもわかった。
瞬間、手を大きく振り上げる。

そしてそのまま、密の殿部に向けて打ち付けた。

「嘘つきっっ!!!!!」
「っっーー!!!!」

声無き密の悲鳴が、つまった吐息となって俺の膝にかかる。


「嘘吐き 嘘つき 嘘つき !!!!」

何度も、何度も、尻を打ち付ける。
俺は飼い主だから。
ペットのしつけはちゃんとしなければいけない。


ペット用のトイレで用を足さなかった密に
その上、飼い主の俺に嘘をついた密に

おしおきを。


「駄目な子!
 本当に密は駄目な子だね!!」


朱に染まる密の尻は扇情的で、夢中になって はりつづける。
痛みに耐える密は、いっそ純粋なまでに綺麗で、
とても腹がたった。



もっと穢して、堕ちるとこまで堕として。
誰からも見られないくらいに醜くなって。
世界中で一番汚い存在になって。

きっとそうしたら、密を愛せるのは俺だけになる。

好きだから
好きだから
好きだからこんなことができるんだよ。



はるたびに しなる密の首に連なった鎖が、
ジャラジャラと癇に障る心地よい音をたてた。







「ふう…。」

はたきすぎて痛くなってしまった自分の手を、満足げにみつめる。
密は細かく体を振動させ、瞳に涙をためていた。


そんな姿が、愛しくてたまらない。


「ごめんねー密。」

きゅっと抱きしめて、その涙を舌ですくい取ってやる。
密は行為が終わったことを知り、ほぅっと小さくため息をついた。
そんな密に苦い笑いを もらす。




「さあ密。


 ここからがおしおきの本番だよ。 


 嬉しい?」




極上の笑顔を作り密に問い掛ける。
密の顔が、一気に青ざめた。


「もう わかってるよね。」

がちがちと噛みあわない密の歯が鳴る。


場所を移動する為、つないだ鎖を首輪からはずそうと
手を伸ばした瞬間。


「 いや だ    ー−!!!」


キーンと耳をつんざく金切り声。
ヒステリーなそれにゾクゾクする。


ああ。高揚が止まらない。


鍵が無ければはずれないようになっている
鎖を首輪からはずしてやる。


「さあ 行こうか。」


暴れる密を無理やり押さえつけ
隠し切れない嬉しさの声でそう言い、俺は
密を首輪を持って引きづり、リビングを後にした。
intensive care unit>> next limits









011028(日)