僕はお人形。
中世時代にフランスで作られた。

少女の格好をさせられているが、僕は男だ。
関節が球体で作られており、頭髪や眼球は好きに変えられるように作られている。

今はゴールドブラウンの巻き髪に、プラチナブルーの瞳をいれられている。
先日までは、月光のような淡い絹の髪と、翡翠でできた瞳を入れられていた。


そう、まるであの少年のような。



「あっく・・・うう・・・」

僕のようにフリルのついたお洋服を着せられた少年が、
館の主人―僕の持ち主でもある人間の前に足を開いて座らされている。
天蓋付きの柔らかなベッドは、少年と主人の重みを受け止めていた。

「密・・・。ほら、もっと足をひろげて。俺に よく見えるように。
 ・・・今更恥じることなんて何もないでしょ?
 密のそこ、もう期待して甘いミルクを吐き出してるんだし、さ。」

くすくすと笑みの零れる美しい口唇から、同時に淫猥な言葉が漏れる。
それに伴って、少年の体がビクリとしなった。
朱色に染まった肌が 更に紅潮をひどくする。

「う・・・うるさい。黙れっっ!!」

かぁっとなった少年は、主人をきつい瞳で睨んだ。


その少年の名は、『密』と言う。
とある貴族の息子だったが、親に捨てられてしまったのだ。
生まれつき 何らかの 畏怖の力があるようで、それを周囲の者が忌み嫌っており、
家人が住んでいる館と離れた、小高い丘の上に 隔離されていたらしい。

主人は、少年をずっと狙っていた。
その証拠として、僕は前まで密と言う少年と、まったく同じ容姿をさせられていたのだ。
この少年―密が捨てられたのも、きっと主人が家人に何らかの力を使ったに違いない。

密がこの館に来る前、密を可愛がっていた父親が、瞳を失ったという。
父親の瞳を失わせたのは、主人に間違いないだろうと僕は思うが、
そんなことは もちろん知らない周囲の者が、それを密の仕業だとはやし立てたのだ。
そして、それに興じて主人は、密を『買う』と言う形で館へ連れてきたのだった。


蝋燭だけの光の中、視線を受け止めながら主人は冷たく笑う。

「密? 密は一体、誰のものなのかな?」

燭台に手をかけ、しゅるりとループタイを緩めながら主人は密をみつめた。
黒色の髪が、ほほに影を落す。
暗闇の中光る紫の瞳が、圧倒的な支配者の色を帯びた。

「・・・っ。」

密の口は、まるで呪文でもかけられたように固く結ばれてしまう。
しかし、主人の無言の命令は それでは無い。

「密?」
「あ、 っつ う!!」


黙ったままの密に、主人は無常にも燭台の蝋を垂らした。

「あ っつい ! やめっっ!!」

つま先に首筋に、無防備な肌に蝋燭は垂れ落ちていく。
密の髪に飾られた薔薇が、じりじりと焦げるようなむせかえる芳香をたてた。

幾度 抵抗しようと、主人の薄ら笑いは止まらず、動作も終わりが無い。
さすがに可哀相だと思う。
ガーターを穿かされた太ももの内側に蝋が垂らされたときなどは
密の悲鳴も声にならなく かすれてしまっていた。


「やめてあげてください!」
と言いたいが、もちろん 僕に発言の術は無い。


僕は意思のある人形ではあるが、発語も自動もできない。
他のお人形のように、主人や他の者に動かされなければ、
着替えることもできないのだ。

ただみつめ、見守ることしかできない。
密の瞳に涙がたまろうとも、苦しそうに痛そうに喉をそらそうとも、
ただ 座っていることしかできない。

蝋は固まり、密の肌には 痛々しく白い蝋の斑点ができていた。


「ほら。早く言いなよ。それとも もっとやってほしいの?」
主人の言葉に、密は荒い息とともに顔を上げる。
しかし、その瞳は、僕の心配とは裏腹に、情欲に濡れていた。

「も・・・っと・・・・・・。」

「ああ、本当に密は痛いことが好きだね。
 じゃあ、もっと痛くしてあげる、よ!」
「あぁぁぁぁぁ!!」

びりりっと引き裂かれる絹のドレスが、赤く朱に染まる。
主人の振り上げた燭台の切っ先で 布とともに切り裂かれた皮膚が、
胸の真中あたりに血を流し
首から下げていた十字のペンダントを、血で穢した。


「あ、ああ・・・い、良い・・・もっとぉ・・・。」
擦りつけるように密は、体を主人に寄せる。
「いやらしいね、密。
 でも、もっともっといやらしく改造してあげる。
 痛いことがもっと欲しくなるように、俺だけに腰をくねらせるように。」
そう言うと、主人は密の首筋に更に歯を立て血を溢れさせた。

「あ、ううっ痛い・・・。ん・・・もっと、吸ってぇ・・・」
「良いよ。もっと吸ってあげる。」

首筋でにやりと笑う主人の口元から、密の血液と一緒に
きらりと光る鋭い犬歯が見える。
そう、それは人間ではない者と言う、証・・・。

「密。
 もう一度聞くよ。
 密は一体、誰のもの?」

「俺は・・・ご主人様の・・・」

「名前で言って。
 呼び捨てで良いから。」

そう言って主人は、軽く密の首筋に口付けを落とす。
「んぅっ」とため息を漏らした後、密はもう一度口を開いた。


「お、俺は・・・ご主人さ・・・つ、都筑の・・・
 都筑の、ものです・・・っっ!!」

言い終えた瞬間、主人―都筑は密の中に激しく指を挿入させた。
「ひ、ぐぅぅ!!!」
髑髏モチーフの指輪付の指を深く挿れられ、密の目が白くなる。

「よく言えました。 可愛いよ、密・・・。
もっと従順に大人しくしてれば、もっと可愛がって、痛くしてあげるからね。」

「あ、あ、ああ・・・」

その言葉に、密は期待に震える欲望の蜜を、ぽたりぽたりとベッドの上に零した。





僕は お人形。
意思はあっても動くことは出来ない。
彼は人間。
意思はあっても主人のなすがまま。

僕と同じようにフリルのお洋服を着せられて、
僕(球体関節人形)でもできないくらいに足を広げられて、
主人に嬲られ蹂躙されている。

彼は お人形。
僕と同じ、お人形。

違う点と言ったら、血が通っていることぐらい。

彼は お人形。
主人に愛されるだけの、愛玩性欲処理人形。




僕は座って沈黙のまま、絡み合う二人の姿を見た。
外は激しい嵐とともに、雷雲がごうごうと音をたてている。
ぴかりと、稲光が走った。
光に照らし出された影の向こう、主人の背中には暗黒の翼が隠れている。

行為に夢中な密は、まだそれに気づいていないようだった。



僕と同じ お人形な密。
これから先、仲良くしよう。


何千年も、何万年も。
主人に買われる、お人形として。






〜END〜








0020330(土)